血液が沸騰するような
逆流するような
不思議な感覚が身体を包む。
ピリピリと痺れた感覚が身体中を
這いまわるように感じる。
「怖いっ…櫂斗さ…ぁん……っ」
拭うこともできない涙は次々に
溢れて頬を濡らす。
そんな棗の叫びも届かないのか
ぼんやりと櫂斗は手に持った
写真を眺めていた。
風になびく長い黒髪を
そっと手で押さえ微笑む女性。
今でも目を閉じればその笑顔が
脳裏に浮かぶ。
自分を呼ぶ柔らかい声。
「乃愛…」
櫂斗はもはやこの世にはいない
かつての恋人の名前を呼んだ。
「櫂斗さんっ…」
声のする方にゆっくりと櫂斗は
顔を向けた。



