「いやっ!!」
棗の悲鳴と櫂斗が顔を
遠ざけたのはほぼ同時だった。
眉を寄せて櫂斗は棗を見ていた。
わけがわからず棗は瞬きを
繰り返す。
櫂斗はブラウスの襟に手を
当てると無理に横に引いた。
ボタンの千切れる音が静かな
室内に響く。
服の中に入れていたネックレスが
棗の胸元で揺れた。
「あ…」
「ロザリオか…子供だましだな」
指先を鎖骨から辿って胸元へ
移動させながらネックレスの
先端に引っ掛ける。
櫂斗が指に力を入れると
あっけないくらい簡単に留め金が
外れネックレスは下へ落ちた。
「続きをしようか」
櫂斗が軽く棗の肩を押す。
身動きの取れない身体は
固まったままベッドへと沈む。
薄暗闇の天井を見ながら
自然と涙が溢れた。
―――――――玲。
棗は目を伏せながら、紅茶色の
瞳を持つ男の名前を心で呼んだ。



