髪から目尻、鼻を通って頬へ、
親指が唇の輪郭をなぞる。
「君のお母さんが写真を持って
現れた時、運命だと思ったよ。
ようやく戻ってきた」
櫂斗の熱い眼差しを受けながら
棗は身体に違和感を感じた。
動きたいのに、身体が動かない。
櫂斗の指が首筋へと降りていく。
「い……や…」
見えない何かが身体全体を
押さえているような、
自分の身体ではないような
感覚に陥る。
「しゃべる力が残ってるとは
暗示の効きが弱いようだな」
顔を寄せた櫂斗が耳元で囁く。
櫂斗の髪が頬を撫でた時、
首筋に冷たいものが
押しあてられる。
嫌、嫌、嫌…。
声に出ていたのか頭の中だけで
叫んでいたのかよくわからない。
首筋に微かに刺すような
痛みが走った。



