一瞬動きを止めた櫂斗が横目で
棗を見る。
チラリと見ただけで櫂斗は
また手を動かし始めた。
上着を掛けながら、
話そうとしない櫂斗に
棗は続けて言う。
「裏にイニシャルがありました。
NHと。あなたが間違えて
彫るわけない。わたしに
こだわる理由は何ですか?
会社でも家柄でもなく、
わたしでなければいけない
理由があるんでしょう?」
櫂斗が棗の方へ向き直る。
近づいてくる櫂斗に無意識に
足が後退する。
ふくらはぎにベッドが当たって
足は自然に止まった。
ベッドサイドの照明が櫂斗の
笑顔を妖しく照らし出す。
「理由は君がすべてだよ」
櫂斗の手がゆっくりと
自分へ伸びてきた。



