絢に駆け寄ろうとした棗の手首を
櫂斗の手が捕まえる。
「用は済んだろう、
君はこっちだ」
棗の手を引いて歩き出しながら、
「凛子、後始末をしておけ」と
後ろに向かって言い放った。
凛子が頷くのを横目で見ながら、
櫂斗に強い力で引かれて強制的に
連れて行かれる。
行った先は以前案内された
棗の部屋ではなかった。
間接照明に、
赤黒いカバーのかかったベッド、
濃い木の色を基調とした家具が
部屋の中を占めている。
櫂斗の部屋のようだった。
部屋に入ると櫂斗はスーツの
上着を脱いだ。
櫂斗の動きに身体が強張る。
「この指輪、誰かにあげようと
したものではないんですか?」
ネクタイを緩める櫂斗を見ながら
声が震えないように
平静を装って言葉を紡ぐ。



