そうこうしている間に男は絢を
無理やり車に引き擦り込む。
「いったん屋敷に戻りますが、
あなたは?」
よく通る声とは反対に生気のない
瞳が棗を見つめる。
「……行きます」
棗の言葉に凛子は助手席の扉を
開いた。
凛子からあらかじめ
連絡がいっていたのか、
吹き抜けのシャンデリアの下で
櫂斗は待っていた。
扉が開き棗が入ってくると
「おかえり」と笑顔で言う。
込み上げてくる怒りに思わず
棗は櫂斗の頬を叩いていた。
乾いた音が辺りに響く。
「わたしを手に入れるために
周りの人を巻き込まないで!」
鋭く刺すような視線に怯みそうに
なりながらも言葉を続ける。
「あの男に彼女を放すように
命令して」
櫂斗は視界に入っていなかった
棗の後ろへと目を向ける。



