絢の篭った声が空しく
闇に溶けていく。

「やめなさい!」

必死に叫んでいると、
よく通る声が男の名前を呼んだ。

「一色さん」

振り返った先にスーツ姿の
凛子が見えた。

「騒ぎを起こすのは
ルール違反ですよ」

「仕方ないだろ、ヴァンパイアの
甘い香りがしたんだ」

一色と呼ばれた男は不機嫌そうに
顔を歪めた。

「…とりあえず車へ。
ここは目立ちます」

停めた車へ誘導する凛子に
慌てて棗は詰め寄った。

「待って!櫂斗さんの仕業なの?
あの男を止めてちょうだい!」

「…私に命令権はありません」

抑揚のない声で凛子は答える。
棗は唇を噛み締めた。