君の瞳に映る色

鈍い頭の痛みが身体を支配する。

不便な身体だとつくづく思う。

どこかを自由に歩くことも
できない。

棗は自分の考えたことに
フッと笑いを漏らした。
“どこかを自由に歩きたい”とは
今まで考えたことはなかった。

外の世界に興味はなかった。
自分には関係のないものだと
思っていたから。

玲が消えて行った方を見ながら、
もう少しだけ…、と
棗は心の中で呟いた。


―もう少しだけ、
自由でいてもいいわよね。


きっとこれが暁生のいう
自由なのだと今なら思える。

そしてこれが自分に与えられた
最初で、最後の“自由”
だとも思えた。


瞼を閉じて後ろの壁に
寄りかかる。
いろんな色が横切っては
消えていく。

喜び、幸せ、悲しみ、怒り、
世の中にはいろんな感情が
溢れている。

中でも強い感情は濃くはっきり
見え、自分の中に
入ってきやすい。

色に当てられて、気分が
悪くなるのはマイナスの感情ほど
強く見えるからだ。