棗がいなくなったと東條家の
秘書・凛子から連絡が入ったのは
昨日の夜遅くだった。
朝になってもまだ戻らないと
再度連絡が入り今に至る。

恐らくあまり寝てないのだろう。

じっと見ていると菖蒲と視線が
ぶつかった。

命令したのに動かずに
立ったままの柊を菖蒲は
睨むように見る。

柊は視線を外して宙を見ながら、
少し…と呟いた。

「性急すぎたのではないですか?
お嬢様のお引越しの件。私達にも
知らされず、皆驚いていました」

菖蒲の表情がさらに険しくなる。

「報告する必要があるの?」

嫌味な雰囲気が言葉に混ざる。
菖蒲は疲れた様子で背もたれに
身体を預けた。

「申し分のない結婚話よ。
何不自由なく暮らしていける。
あの子には……この会社を
継がせたくないの」

どこを見るでもなく
ぼんやりとした瞳で
独り言のように菖蒲は言った。

「奥様がお嬢様を思う気持ちは
わかります。ただ…」

言葉を切って柊は菖蒲を見た。

「お嬢様も同じように奥様の事を
思っているのを忘れないで
いただきたいのです」

しばらく無表情で菖蒲は柊を
見ていたが、やがて鼻で笑うと
整った綺麗な顔を歪める。

「説教は聴かないわよ。一刻も
早くあの子を見つけ出して」

柊は、はい、と返すと
軽く頭を下げた。