君の瞳に映る色

思っているのに不思議と
足が動かない。
ここから逃げてしまえば
行く当てのない漠然とした不安が
待っている。

逃げれば玲からも櫂斗からも
追われるのだろうか。

決心がつかずに動けないでいると
玲の肩にティアラが乗っている
ことに気が付いた。

玲はティアラを殺すことはない。
それだけは自分でも驚くくらい
はっきりとそう思えた。

それでも後ろの景色は
振り返らずに溜め息を吐いて
棗は前へと歩き出す。
玲が2階建てのアパートの
外階段を昇り始めたので
その後を追った。

一番手前の扉の前で玲が止まる。

なあに?ここ、と隣の玲を見ると
玲は笑みを浮かべながら鍵を
回す。

「…俺んち」

目を丸くして固まる棗を尻目に
玲はドアを開けた。

「玲~?おかえり~」

突然中から顔を出した女性に
玲もギョッとした。

しっとり濡れた髪の毛、ほんのり
桜色に染まった身体を
バスタオル一枚で包んで女性が
飛び出してくる。

女性は見覚えのない棗に視線を
移すと、誰?と聞いた。

うねりのある短めの髪からは
滴がこぼれ鎖骨を通って胸元の
タオルへ吸収されていく。

豊満なバストはタオルから
今にも溢れそうで棗は思わず
目を逸らした。