君の瞳に映る色

風が緩むと足に地面の
感触がした。

恐る恐る目を開けると見知らぬ
場所に立っていた。
住宅地のようで周りは戸建ての
住宅やこじんまりした
アパートが立ち並んでいる。

ありえないことだが今、
自分はさっきいた場所とは
別の場所にいる、
全体的に簡素な雰囲気の漂う
町並みを棗は眺めた。

―ヴァンパイアの力。

改めて思う、この目の前の男は
人間ではないのだと。
赤い瞳の櫂斗が脳裏を過る。
そして以前に見た玲の赤い瞳も。

―この男だって櫂斗と同じで、
何をするかわからない。

歩き出した玲の背中を見て
急に棗は不安になった。

弱点を知られたときに樋野達を
使って襲ってきたことを棗は
思い出す。
人を簡単に操り、餌にする。


棗は後ろを振り返った。

静かな町並みに人通りはない。
カバンの中には財布があるし、
カードもある。
どこかの通りに出ればタクシーが
拾えるかもしれない。

「お嬢様?こっちだよ」

棗の考えていることを
想像もしていない玲は少し
振り返ってまた歩き出す。

心臓の鼓動が速くなる。
逃げるなら今しかないと
棗は思った。