君の瞳に映る色

棗をすっぽり腕に包んだまま
玲は顔を上げた。
肩に乗ったティアラが唸る。

屋敷の方角から人らしき気配を
感じた。

強力な力を持った嫌な相手だ。
学校ですれ違った櫂斗を玲は
思い浮かべた。

「悪いけど、…渡さない」

玲の言葉は突然巻き起こる
強い風に掻き消される。
聞き返そうとしたその時、身体が
宙に浮くような感覚がした。

小さい悲鳴は
風に吸収されていく。

固く目を閉じると玲の腕に
力がこもった。





ひと気のない林に櫂斗と
凛子は立っていた。

「…どうします?」

顔色を伺うように凛子は
隣の櫂斗に尋ねた。

「見当はつく」

低い声を搾り出すように
櫂斗は呟いた。
怒りが収まらず、赤くなるほど
固く握り締めた拳で木を殴る。
鋭い音と共に首ほどの
太さの木が呆気なく折れた。

ミシミシと音を立てて
木が倒れる。
荒い息を吐いて赤い瞳の
櫂斗が振り返る。

「一刻も早く取り戻せ。
…それと、あの男に連絡しろ」

短く返事をして凛子は頭を
下げた。