このまま身を委ねていれば
いつか楽になるんだろうか…。


櫂斗の片方の手がブラジャーの
ホックを外そうとしたので、
棗は無意識に身体を捩った。

ベッドのスプリングが
鈍い音で軋む。



「ニャア」



突然、櫂斗が動きを
ピタリと止めた。


微かに恐怖の色を感じ取って
棗はそっと目を開けた。

自分の上にいる櫂斗は
キョロキョロと周りの
様子を窺っている。

猫の声がした、と櫂斗が
呟いたので、棗は家から
連れてきたことを告げた。

「…僕は猫アレルギーだ」

カーテンの閉まった薄暗い
部屋のせいか櫂斗の顔色が
青ざめて見えた。

「場所を変える、来い」

下着姿のまま櫂斗に手を引かれて
棗は咄嗟に櫂斗の手を振り払う。

「嫌です!こんな恰好で」

棗が叫ぶと櫂斗は鋭い視線で
睨みつけた。

薄暗闇に光る赤黒い瞳、
ヴァンパイアの目。
恐怖に身体が竦んだ。

「次に戻るまでに始末しておけ」

吐き捨てるように言って
櫂斗は部屋を出る。

激しい音を立ててドアが閉まり
足音が段々と遠ざかっていく。