君の瞳に映る色

「悪いが君のところに手を
借りなくてもうちの会社は
十分な規模を持っている。
ホテルをもらったのは君の
お母さんに敬意を表したからだ」

言わないでおくつもりだったのに
と、櫂斗はわざとらしく
溜め息を吐く。

固まったままの棗の唇を櫂斗は
指でゆっくりとなぞった。
その形を確かめるように。
背筋がゾクッと震えるのを棗は
感じた。

「興味があるのは君だけだよ」

なぜ、わたしなんですか、
無意識に棗は呟いていた。

しばらく間をおいて
櫂斗は口を開く。

「写真を見て僕のものにしたいと
思ったんだ、それだけだよ」

櫂斗は目を細めて棗を見た。
口元には笑みが浮かぶ。

「この目も、唇も、身体も、
心も、全て僕のものだ」

櫂斗は棗の頬から唇、そして
首筋へと手を滑らせていく。

「僕には逆らえない事を
教えてあげるよ」


薄暗い車内に櫂斗の瞳が
怪しく光る。


そっと瞳を閉じたのと同時に
櫂斗の唇が自分の唇に重なった。