君の瞳に映る色

樋野は棗の前に現れた
見慣れない男を遠目に眺めた。

昨日言っていた婚約者か?と
想像を巡らせながら隣の玲を
チラリと窺う。

玲は無言で2人を見据えている。

だんだん近づくにつれて
男の顔がはっきり見えた。
黒の上下のスーツに
グレーのシャツ。
切れ長で少しつり目の瞳は
端正な顔立ちをどこか冷たい
雰囲気に見せている。

困惑した表情で俯く棗は
とても恋人といるような
様子ではなかった。

不意に男が視線をこちらに
向けたので樋野は慌てて
目を逸らした。
視界の端で男がこちらを
見ているのがわかる。

2人の横を通り過ぎようという時
玲が足を止めたので
樋野も驚いてその場に止まった。

おはよう、と玲は顔を
俯かせたままの棗に声をかける。
声を掛けられたのが
わかっていても棗は俯いたまま
玲と視線を合わせようとしない。

消えそうな声で挨拶を返した。

「…僕の婚約者と
どういう関係かな」

棗の肩に手を置いて自分の方に
引き寄せながら男が言う。

突き刺さるような鋭い視線を
男が玲に向ける。
玲も睨むように男を見た。

「クラスメイトだけど?」

視線が交錯する2人を
ハラハラしながら樋野は
見ていた。