君の瞳に映る色

結局櫂斗は朝まで戻らなかった。
朝食もそこそこに棗は家を出た。

始業にはまだ早い時間に
着いたので屋上に向かう。
ひどい寝不足で、生徒が増えれば
気分が悪くなりそうだった。

4階まで階段を上がり何気なく
横を見ると、廊下の端から玲と
樋野が歩いてくるのが見えた。

そのまま通り過ぎても
よかったのに何となく棗は
2人を見ていた。


「棗ちゃん」


その声に心臓が嫌な音を立てて
鳴った。
視線を前に移すと校舎を繋ぐ
渡り廊下に櫂斗の姿があった。

黒いスーツ姿の櫂斗が一歩一歩
こちらに近付いてくる。

棗は息を呑んでその場に
立ち尽くしていた。
激しく打つ心臓が、櫂斗が
近付くにつれてさらに
激しくなる気がする。

「君の顔を見ようと思ってね、
屋敷を出た後だと聞いて
直接こっちに来たんだ」

櫂斗の言葉も笑顔も棗には
嬉しいものではなかった。
この人に会いたくないから
早めに家を出たのに。
櫂斗が棗に触れようと手を
伸ばしてきたので、棗は身を
引いてその手を避けた。

「……」

櫂斗の視線からも逃げるように
棗は顔を背ける。

静かな廊下に響く足音。

玲と樋野がこちらに
近づいてくるのがわかった。