ようやく腕を解放されると
棗は逃げるように自分の部屋へと
走った。


乱れた息で閉めたドアに
寄り掛かる。
部屋の中は泥棒が入ったように
色々な物が散乱していた。
棗はそのまま力なく床に
座り込む。

心臓の鼓動が
頭まで大きく響いた。
悲痛な表情で棗は目を伏せる。

ニャァとティアラが棗の足に
擦り寄ってくる。
黄金の瞳をした黒猫に棗は
ティアラと名付けていた。
どうやら騒ぎの中ベッドの下に
隠れていたようだった。

そっとその腕に抱くと小さな
身体から温もりが伝わってくる。
その温もりを確かめるように
しばらく棗はティアラを
抱いていた。
柔らかい毛並みを撫でてやる。


後ろでドアを叩く音がして
棗の心臓が跳ね上がる。

「誰!?」

強い口調で外に向けて叫ぶと、
私です、と柊の穏やかな声が
返ってきた。
棗は肩の力を抜いて
ドアを開ける。
心配そうな柊の顔があった。

「奥様にご相談されては
いかがですか?」

困惑しながら言う柊に棗は
力ない笑顔を返した。