振り返ると玲が目を丸くして
立っていた。
脅かさないでよ、慌てて叫ぶと
気付いてると思った、と逆に
驚いた様子で玲は言った。

目の前の色に
集中していたせいだ。

普通なら気付いた。
玲の闇の色は誰の色よりも
はっきりと自分の中に映るから。

棗は高鳴った鼓動を
落ち着かせるために
深く息を吐いた。


玲の顔を見て、言ってやろうと
考えていたことを思い出す。
じっと横目で玲を見つめると
不思議そうに首を傾げた。

「…わたしの部屋に勝手に
入らないでって何度言えば
わかるの」

あぁ、と玲は呟く。
そんなことか、とでも言いたげな
表情で玲は棗を見た。

「一回入ったら関係ないだろ」

そう言って玲はニッと笑う。

「ジュース飲んだ?
ヴァンパイア特製栄養ドリンク」

玲の言葉に棗は眉を寄せた。

「…変なものが入ってたんじゃ
ないでしょうね」

不安な顔をする棗を見て
玲は笑った。

「ちゃんと飲んだんだな」

玲は楽しそうにクスクス笑う。
穏やかな風に揺れる棗の髪を
梳かすように撫でた。
優しく暖かい手が何度も
棗の髪の上を往復する。

すぐ髪を触る玲の癖には
なんとなく馴れてきて
落ち着かないものの
不快ではなかった。