君の瞳に映る色

中庭の中心には校章を
モチーフにした花時計がある。
その周りにはベンチが設置され、
花壇には季節の花が綺麗に
咲いていた。

ようやく棗は瑠璃の手を
離して振り返る。
濡れた大きな瞳が棗を見上げた。
言いたい事はあるのに素直に
言葉が出てこない。
じっと瑠璃を見つめていると
瑠璃の目からはまた涙が溢れた。

「西園寺さんの気持ち、考えずに
嫌な事、頼んでごめんなさい」

途切れ途切れに瑠璃は言う。
頬を伝う涙に棗は心が痛んだ。
同時に言葉にできない自分を
もどかしく思う。

言い淀んでいると、
「嫌いにならないでください」
と、掠れた声で瑠璃が言った。

言葉以上に瑠璃の悲しみや不安、
後悔の色が心に沁みこんでくる。

「…見てもいいわよ、彼の色」

つい口から出た言葉に
自分でも驚いた。
瑠璃も驚いて顔を上げた。
しかし、また顔を俯かせると、
もういいんです、と言った。

「前もそれで失敗したのに、
誰かを好きになるといつも
余裕がなくなっちゃって…」

ふーん、と曖昧に頷いて棗は
ベンチに腰掛ける。
周りが見えなくなるくらいの
好きな人ね、と独り言のように
呟いた。