君の瞳に映る色

柔らかい月明かりを眺めていた
はずなのにいつの間にか
眠ってしまったのだろうか。
閉じた瞼の裏に闇の色が
映るのを棗は感じた。

額にひやりと冷たい掌の感触。
熱があるせいかとても
心地よく思える。
その手が顔をなぞるように
下りて頬に触れた。
うっすら開けた棗の瞳には
月明かりを背にした人影だけが
見える。


その影が視界を塞ぐように
近づいてきて棗の耳元に
顔を寄せる。


ふわりと甘い香りがした。


低いトーンの声を耳元で
聞きながら棗は心地よい眠りに
落ちて行った。


ドアをノックする音に棗は
どうぞ、と答えた。
柊が朝食を運び入れる。
昨日よりはるかに顔色の良い棗を
見て柊は穏やかに笑った。

おや?と声を出した柊の方に
棗は視線を向けた。
柊は棗の机の上を見て
首を捻っている。
柊が棗の机を触ることなど
滅多にない。

なあに?と棗は聞いた。

「いえ、机の上にこんなものが」

言って柊は棗にそれを渡す。
紙パックのジュースだった。
ウサギのイラストの描かれた
ニンジンジュースを棗は
眉をひそめて見る。