「キスしてもいい?」

もう1度確認するように玲は
聞いた。
固まったままの棗の頬を
両手で挟むと棗はぎゅっと固く
目を閉じた。

どうやら抵抗はしないらしい。

月明かりに照らされた薄桃色の
形の良い唇にそっと玲は自分の
唇を重ねた。


微かな夜風と静寂が
2人を包んだ。


こんな子供みたいなキスは
いつ以来だろう。
静かに唇を離しながら考えた。

棗の肩を軽く押して
玲は自分から遠ざけた。
棗は訝しげに玲を見ていたが、
踵を返すと小走りに
去って行った。


その後ろ姿が消えてしまうと
玲は大袈裟な溜息を吐いた。

髪をくしゃくしゃっと掻きながら
天を仰いだ。