目を伏せて棗は微かに
震えているように見えた。
玲は自分の着ていた
カーディガンを脱いで棗を
包むようにして、送ってやるよと
言った。

「いいわ、車を待たせてるから」

棗が身体を離そうとしたので
思わず玲は棗の両腕を掴んで
引き止めた。
棗は目を丸くして玲を見る。
ニッと笑って、助けた礼をまだ
もらってなかったな、と言った。

そのまま身体を引き寄せられ
棗は慌てて抵抗した。
胸を手で押して顔を背ける。
いつの間にか力強い腕の中に
抱きすくめられ棗は身動きが
取れなくなった。
玲は顔を寄せてきて耳元で囁く。

「キスしていい?」

笑みを浮かべて言う玲を
棗は睨んだ。

「やめる気はないくせに」

俺のことわかってきたな、と
玲は口の端で笑う。
腕の中の身体は小さく震えて
いるのに、棗の瞳はまっすぐに
玲を見据えていた。

「お嬢様はホントに男が
苦手なんだな。婚約者くんの時は
吐くなよって言ったのに」

棗は玲の言葉に眉をしかめた。

「どこから見てたんだ?って
顔してるな」

玲は棗の心を
見透かすように言う。

「電話は偶然掛かってきたと
思ってた?」

玲の言葉に棗は目を見開いた。