アップにしなさい、今度は
命令口調で言うと
菖蒲は部屋を出ていった。
スタイリストは無言で
髪を直し始める。
何か言葉を掛けてやれば
いいのかもしれないが
他人を気遣う言葉など
すぐに出てこない。
棗も特に何も言わずに
本へと視線を戻した。

くれぐれも粗相のないように。

今日何度目かになるその言葉に
返事をし棗は屋敷を出た。
もちろん立ち振る舞いや
作法もだが菖蒲の言いたい事は
わかっている。

棗の能力を相手に知られるなと
いうのだ。
その事を口に出して言うのも
癇に障るのだろう。
なんだか家を出るまでに
疲れてしまって
棗はまた溜息を吐いた。

屋敷の門のところには棗専用の車
そして柊が待っていた。
柊は棗の姿を見て目を細めた。

髪はサイドを少し残し
すべて毛先の見えないように
巻き上げている。
それに華やかさを足す為に
右耳の上から後ろにかけて
白の生花をあしらってあった。
ドレスは紺色に地模様のある
布地を使った首でリボンを結ぶ
タイプだ。
腰まではぴったりとしたライン、
腰から下はふんわりと広がった
膝丈のもので裾には
スパンコールがついて
キラキラしている。
棗の細い体を華やかに上品に
見せていた。