保健室アイロニー[短篇]

元の顔が整っているだけに、余計に意味の無い笑顔を匂わせる。


「幻滅? 肩書きがなんの物差しになるというの? 貴方とここまで近づいたのは今日が初めてよ」
 
デスクの上の書類を整理しながら、淡々と言葉を投げかける。

「だから幻滅ではないわ。皆川 芹という男子生徒があんな男でした、って今日知っただけのことよ」
 

芹の顔を見ないまま、来室ノートを確かめチェックを入れていく。
 
ボールペンの音がやけに保健室に響いた。


「それとも貴方は肩書きで判断されたいのかしら? 真面目で優秀な男が、実は女性を陥れることに長けているってギャップを見せつけたい?」

 
全てを確認し終えて、顔を上げると芹は今までになく真剣な表情でこちらを見つめていた。

緩んだネクタイにはだけた胸元のままなのに、至って真面目な顔をしている辺りがいささか可笑しい。

 
窓から入ってくる風が、デスクの上の花と芹の黒髪を揺らしていた。


「先生って辛辣」

「おかげでここは静かで過ごしやすいのよ。たまに貴方たちみたいに勘違いな生徒が来て困るけど」
 

何食わぬ顔でさらりと言ってのける律に、芹はため息をつきながらようやく胸のボタンを留め始めた。

男らしくないしなやかな手つきは普段からのものか、と律は少しだけ手に意識を持っていかれた。