保健室アイロニー[短篇]

「あー、ごめん、先生。俺が悪かった」
 
ベッドの端に座りなおした男子生徒が、落ち着いた声で謝ってくる。

向き直った律は、両肩をあげるジェスチャーをしたのみで、言葉は口にしなかった。
 

その仕草を男子生徒がふざけたように真似る。


「気が済んだら出て行ってもらえるかしら。ここは怪我人と病人が来るところよ、皆川君」
 
乱れた髪を手際よく結い直していると、皆川と呼ばれた男子生徒がへぇ、と漏らした。


「俺のこと知ってるんだ?」

「学校一の秀才児、それでいて無遅刻、無欠席。生徒会長に望まれながら辞退。三年A組皆川 芹(みながわ せり)。保健医だってそれぐらい知っているわ」

 
鏡で確認することなくシニヨンを綺麗にまとめ、律は自分のデスクへと向かう。
 
その後を追うように、芹も立ち上がり側にあった椅子に腰を落とした。
 

律はデスクの椅子に座る前に、後ろの窓を開け放つ。

まだ少し冷たい風と共に、体育の授業であろう声とボールを蹴る音が吹き込んできた。


「ま、確かに。その秀才児がこんな男で幻滅した?」
 

背中越しに聞く芹の声は、少し自虐的に思えた。
 
というよりもどこかそう思われたい雰囲気さえ感じられる。
 

椅子に腰を下ろし芹の顔を見つめると、その表情は決して綺麗ではない微笑みを携えていた。