「今さ、先生とセックスしたいんだ」


 
自分でも、どうしてそう思うのかはわからなかった。

それでも芹は今までとは違うその感情を素直に口にすることを選んだ。
 

昨日までは何を言わなくても雰囲気だけで女がなすがままになってくれた。
 
でもそういうのではない。
 

寧ろ、今自分が抱くのではなく、律に抱かれたいのかもしれないとさえ芹は感じていた。

 

ほんの少し考え事をしてから、律は顔を右に向ける。
 
芹の視界の端にその顔が入り込んでくる。


「ねえ、知ってるかしら」
 
その状態のまま、律は静かに話し出した。


「セックスイコール愛にはならないの。でもね、セックスから始まる愛はあるのよ」
 
芹は黙ったまま、律の声を聞いていた。
 

今までの自分は知らない、でももしかしたら知ることも出来たのかもしれない。
 
そう思いながらゆっくり瞼を閉じた。


「それとね」
 
今まで嫌味しか言ってこなかった声が、今の芹には心地よさを与えてくる。


「家のことを原因に、貴方のやりたいことを諦めるのは辞めなさい」
 

それなのにいきなりな台詞に驚いて、芹は目を開けて顔を上げた。

「え、何の話……」

「大学に行く気でいたのに、家業の人手が無くなったから諦めたんでしょう? そんなことどうにでも出来るんだから、貴方は自分の思ったようにやりなさい」
 

驚いて腕の力も緩んだのか、律が芹の腕から離れ、向き直って言う。