保健室アイロニー[短篇]

「それぐらいで辞めるって、名前出てないだろ?」
 
その問いに律がふふ、とまた笑う。


「私立はね、ビジネスなのよ。生徒は大事なお客様。事実がどうであれ、イメージが悪くなったらおしまい」

「いや、でもいくらなんでも」

「言ったでしょう、世の中だって矛盾と理不尽だらけなの。まあ、今回は事実なんだけどね。ついこの間も校長に叱られたばかりだったし。今回で決定打なのよ」

 
芹の言葉を遮って話す律が妙にすっきりしているのが理解できなかった。

「この間って、噂か? 使用済みの……」

「ああ、そこまで耳に届いていた? あれも私のミスだしね。辞職は妥当なのよ。納得?」

「あれってあの時俺に投げた……」

「ええ。あの時うっかりゴミ箱に捨てちゃったのよ」
 

らしくなかったわ、と笑いながら律が芹に背中を向けた。

立ち上がって窓の側に立ち、雨を眺めている。


「だからね、最後に貴方が泣いてくれて良かったわ。昨日のまま、何もないまま終わったら心残りだった」
 
窓に指を当て伝ってゆく雨粒をなぞりながら律が言う。
 

芹はゆっくり立ち上がり、律の後ろに立った。


「そんなに……俺のことが心配だった?」
 

後ろから声をかけると、律は窓に映った芹を見てちょっと意地悪そうな笑みを浮かべる。