保健室アイロニー[短篇]

律がそう言うと、芹の手の力が緩む。そのまま手が離れ、ゆっくりと芹は膝をついた。


「自分で完結させるのは良くないことよ。たまには我侭になることも覚えなさい」
 
俯いて震わせている肩に手を置くと、芹の喉から嗚咽が漏れた。


「まったく、ここまで言わないと泣けないわけ? 私悪役は向いてないのよ」

「うるさい……つーか、悪役とか……普通に出来んだろ」

「あら、無駄口叩く余裕はあるわけね」

「黙れよ……意味わかんねぇし、あんたの話……何も通ってねぇじゃん」

 
なるべく律に顔を見せないように泣く芹に、白衣のポケットに入っていたハンカチを差し出す。

それを受け取ると芹はますます、泣きじゃくりだした。


「さすが秀才って言われるだけあるわね。そうよ、私の話なんて理不尽だらけよ。でもね、人生なんてそんなものよ。真っ直ぐなことなんて、案外少ないんだから」


馬鹿みてぇ。

 
泣きながらそんな呟きだけ聞こえたものの、律は敢えて答えようとはしなかった。


「それと、最初に私が口にした弟さんの件は謝るわ。何も知らない人間が言っていい台詞じゃない。ごめんなさい。でもおかげで貴方の本心が見えた気がする」
 

それだけ言うと、律は泣き止むまで待っていようとゆっくり芹の頭をなだめるように叩き続けた。