保健室アイロニー[短篇]

「貴方のことだから、十人十色って言葉ぐらい理解していると思っていた。

最初の彼女が酷い女だったのは貴方の女運の無さかもしれない。でも、弟さんのことは関係ないじゃない。

何他人のせいにしようとしてるの?」
 

いつもの調子で、いやいつも以上に淡々と口にする律の言葉に芹は思わず立ち上がる。
 
そのままこちらまで歩いてきて、座っている律の白衣の襟を掴んだ。


「ムキになるってことはわかってるんじゃない」
 

襟を掴まれたことに何の抵抗もせず、笑みを浮かべながら言う律に芹の手の力は強まった。


「お前に何がわかるんだよ」
 

昨日以上に激しい剣幕を見せる芹の顔を律はじっと見つめ返す。


「わかるわけないでしょう? 私はテレパシーなんか使えないわ。

人に何かをわかってもらいたいのなら、きちんと説明なさい。尤も、それで理解が得られるかどうかはわからないけどね。

人って結局一人だもの」

「矛盾してるだろ、それ。じゃあ結局どうすればいいんだよ」

 
声を張り上げる芹の顔に律は再び微笑んだ。



「理解を得ようと思わないことよ」

「な……」

「自分は一人だって知れば、どうってことないわ。でもね、これだけは間違えないで。

人は、独りでは生きられないのよ」