保健室アイロニー[短篇]

「それが気に食わなかったのか、別の目的があったのかはわかんねぇし、知りたくもない。

でも弟はその女のせいで酷い目に合って……苦しみ続けて」


雨足の強まった雨が窓ガラスを叩く。


「俺はそんな弟をずっと見てた。力になりたくても何も出来ないし……勿論親父はすぐその女と別れた。

だけど、弟の記憶は一生消えない。だから俺は……」


言おうかどうしようか迷ったような表情を見せ、一瞬だけ芹が律の方を向いた。
 
律はどうぞ、とだけ口にする。

 
それを聞いて、芹が俯き、大きく息を吸い込んだ。



「女が憎かった。最初はあの女だけかと思った。

だけど付き合ってくれって女に言われて、付き合ってみたらその女も駄目だった。好きだの愛しているだのなんだって嘯いて、俺と付き合っていることを誇示したいだけだった。

それがわかってから、女はただの汚らわしいものにしか見えなかったんだ」


 
息を全て吐ききると、芹はゆっくり顔を上げた。
 
律はその顔を笑顔で見つめる。



「幻滅したわ」


 
律の冷たい声が、雨の音と共に保健室に響いた。
 
その声に、芹の顔が固まる。