保健室アイロニー[短篇]

眉をひそめながら律がデスクに戻って芹の顔を見ると、いつにもなくその瞳はしっかりと前を見据えていた。


「ああ、ブレザー。アイロンかけておいたから」
 
わざと思い出したように言いながら律はデスクの右横のハンガー掛けを指差した。
 

しかし芹の視線は流し台の方に向いている。
 
律もつられて視線を向けると、どうやら歯ブラシを見ているらしい。



「俺さ」

 
不意に、芹がか細い声を出した。
 
視線は流し台から窓の外に向けられている。
 

律はその顔をしっかりと見てから、聞き役に徹することに決めた。


「女とか、嫌いなんだ。特にあんたみたいな、年上の」
 

窓の外を向いたままだったが、その両手は強く握られていた。



「親父がさ、女運が悪いって言うか、いいって言うか……結婚と離婚繰り返してんだ。

だから兄弟みんな母親が違う。弟の母親が最後の親だったけどな、事故で死んじまって。

でも親父はまた新しい恋人作ったんだ。俺と兄貴は別に構わなかった。

ただ弟はまだ小学生だったしな、複雑だったと思う。紹介されたって挨拶もしなかった」


 
一旦、区切りをつけるように芹はため息をつく。
 
律はただ芹の顔を見ていた。