「そういや皆川最近保健室行ってなかった? もしかして誘惑されたり……」
 

前の席の男子生徒が笑いながら芹に話しかけてきた途端、その表情が凍りついたのがわかった。
 

他の男子生徒も芹の顔を見て、笑みが一気に消える。


 
自分でも恐ろしいほど落ち着いていた。

 
落ち着きすぎて、芹の顔には笑みさえ浮かんでいた。



「女の価値ってさ、何で決まるんだろうな」


 
やけに冷静な声が教室に響くと同時に、教室中の人間が芹を見つめた。


「え……皆川?」

「悪い、俺帰るし。担任に伝えておいて」
 

そう伝えて鞄を持ち上げると、芹はゆっくりと教室を出て行く。
 
自分の名を呼ぶ声と、ざわめく女子たちの声が聞こえたが、そんなのどうでも良かった。

 

雨のせいで湿気をまとった廊下を歩きながら頭の中をよぎったのは、泣き続ける弟の姿だった。