「私が教師で、貴方が生徒だからよ」


 
淡々と、冷静な律の言葉に、芹は黙って立ち上がり持っていたマグカップをつき返す。
 
受け取ろうともしない律を見て、デスクに音を立てて置き、踵を返してドアに向かって歩く。

 
律はその間何一つ言ってこなかった。
 
ただその視線が自分を見ていることには気づいていた。
 
でもそれにも応えることはしたくない。
 

一瞬足を止めはしたが、芹は乱暴にドアを開け廊下に出る。


 
自分が可笑しくて仕方が無かった。

 
何かを期待していたというのか、その期待に裏切られたような感覚に陥っているのか。

 

涙さえ出てこない目に、髪から垂れてきた雨が浸入してくる。
 
それすら拭わず、黙って芹は玄関へと向かった。


 
ただ、さっきマグカップを置いたときに零れて手にかかった紅茶が、温いはずなのに熱く感じた。