「いいのよ、別に。和菓子屋さんの息子だものね」
 
珍しく柔らかくなった律の声に、思わず芹は顔を向ける。


「あら、学校一有名な生徒なんでしょう? それぐらいすぐ話に出るわよ」
 

何で知っているんだ、という心の声が顔に出ていたのか、もういつもの調子に戻った律が自分の席に座りながら言う。
 
芹は驚いたものの、その言葉に納得してしまい特に言葉を続けなかった。

 
かき混ぜた紅茶に口をつける気にはなんとなくなれなくなってしまう。



「寝不足の原因は、家の手伝いの為?」

「なっ……」

「想像よ、誰かに聞いたわけじゃない」

 
律の顔はもう笑顔でもない、声も優しくない。
 

その雰囲気に、芹はもうどうあがいても無駄だろうと諦めた。


「ばあちゃんが倒れたからな。親父と兄貴だけじゃ大変なんだよ」
 

律から顔を背け、その後ろの窓の外の木を眺めながら素っ気無く答える。
 
他人に言ったことはない、言ったところでどうしようもないから伝える気にもならなかった。
 

それが何故か今答えてしまっている。


「ご家族は他には?」

 
ああ、質問攻めにする気か。

 
そう思うとため息が出たが、もうどうでも良い気分にもなってくる。