保健室アイロニー[短篇]

「そうね。身体の張り所を知っているのよ」
 
けれども、その視線も律は別段気にならなかった。
 

いや、気にならないと言えば嘘になる。
 

ただその気になる点は自分が蔑まれていることではなく、何故そこまで軽蔑するのとかということだ。

 

芹は姿勢の崩れない律が気に入らないらしく、今までに無く顔を歪ませる。

「張り所? 所詮男なんて性欲さえ満たしてやれば言うこと聞くと思ってるだけだろ。セックスすれば支配下におけるなんて、甘いこと考えんなよ」
 

歪んだ顔の瞳は、表情に相反して感情が読み取れなくなっていた。

 
一昨日見せた、何も無い、虚無の瞳。

 
律はその瞳から視線を反らさなかったが、何も言葉に出さなかった。
 

ただ、お互いの顔を見つめながら無言の時間が過ぎる。

雨はどんどん二人を濡らし、律の白衣は重さを増して中のシャツに冷たさが伝わってきた。
 

いつもは呑気に聞こえるアマガエルが、律にはどこか切なく思えた。

 
このまま全て雨に流されてしまえばいいのに。

 
そう考えては、それは無理なことだと否定した。

自分がどうしてここまでしてるのか、それはわからないことだという意識があった。