如何にも腹立たしい、と言う女子生徒の態度に律は何も声をかけなかった。

声をかけたところで無視されるか、噛み付かれるだけだろうし、ああいう場合は放っておいて熱を冷まさせるしかない。

 
顔は覚えたし、風邪を引かないように後でアドバイスしておこう。
 

ずかずかと歩いていく女子生徒をそんなことを考えながら見送り、律は芹の方に向き直る。

 

まだ芹は雨の中立ち尽くしていた。
 
明るくない中俯いているから表情は窺えない。
 
かといってそこから動こうともしない。

 
ブレザーの肩が大分濡れている。


「いつまで雨に打たれているつもり?」
 

ここで出会ったのはタイミングがいいというか悪いというか。

先程頼まれたのも、あながち縁を作ったのかもしれないな、と律は少しだけ呆れていた。
 

芹は一瞬だけ律に視線をやるも、すぐに別のところに目を向ける。
 

律にベッドシーンを見られたときはダメージも受けず、寧ろおどけていたのに、今回はそうもいかないらしい。

 
無言のまま、ずっと雨に晒されている。

 
まったく、と呟きながら律は足を進め、自分も中庭に出た。
 
ぬかるんだ地面にヒールが沈む。
 

冷たい雨が頬を濡らした。