ただ、あの生徒はどうしようもないな、と感じていた。

 
芹は自己解決ではなく、自己完結を選んでいると考えている。
 
その場合、どこまで自分が間に入れるかわからない。

 

なんとなく、遠回りをしたい気分になって渡り廊下からいつもとは別の廊下に入ってみた。

誰も居ない化学室の横を通って、別の渡り廊下に出る。
 

そこは綺麗に手入れされた花壇がある中庭に繋がっているのだが、何故か生徒たちはあまり来ない場所だった。
 
おかげで律の休憩ポイントの一つとなっている。
 

雨に濡れた花を見るのもまた一興か、と渡り廊下を歩いていると声が聞こえてきた。
 
授業中だというのに若い女の声、しかも少しヒステリーを起こしているように律には聞こえる。
 

何事かしら、とため息をつきながら中庭が見えてくると、雨の中に立っている女子生徒が見えた。
 

そしてその奥には芹の顔がある。


「バカにしないでよ」

 
律が声をかけようとしたと同時に、女子生徒が勢いよく芹の左頬に平手を喰らわせた。
 
見事に決まった平手打ちは、鈍い音を立て芹の顔を斜めにさせる。
 

それでも何も言わない芹に愛想が尽きたのか、女子生徒は肩を上げたままその場を離れた。
 
離れたところから見ていた律に気づき、顔をしかめてから横を通り過ぎてゆく。