「では、機会があったら私も話を聞いてみましょう」
 
律がはっきりそう言うと、石川の表情が晴れ、ありがとうございます、と頭を下げた。


「私の話し方が悪いのかと思って、他の先生に頼んでもみたのですが……お忙しくなければで良いので、宜しくお願いします」

「わかりました。何かあればご報告致します」
 

きりっとした態度で了承すると、石川はもう一度頭を下げてから渡り廊下を戻っていった。
 

律はその背中を見送ってから小さなため息をつく。
 
嫌なわけではないが、あの芹相手にどこまで話が出来るかはわからなかった。


 
大学を卒業し、最初に配属されたのがこの私立高校。
 
中高一貫の有名校だけあって、色んな生徒がいるが律自身は関わりを持つことは少なかった。
 

大学時代の同じ仕事をしている友人らに聞けば、みんながサボりに来て困るだの悩み相談が大変だの、生徒相手に苦労しているようだった。
 

しかし、律はそこまで苦労していない。
 
元々の性格もあるだろうし、あまり人を寄せ付けない雰囲気もまた生徒を遠ざける要因となっているのだろう。
 

それでも律は自分のスタイルを崩さなかった。
 

勿論、それなりの理由があって来るものは拒まない。

過去に家庭の事情で複雑な心境を抱えた子が来たときは、いつまでも話を聞いたし、好きなだけ保健室にいさせた。