久しぶりの雨の匂いにどこか懐かしさを覚えながら、律は渡り廊下を歩いていた。


「あ、龍野先生」
 
不意に後ろから声をかけられ、振り返ると三年A組、芹の担任の石川がちょっと困ったような顔で近づいてくる。

「どうかされましたか」

「いや、昨日うちの皆川が保健室を利用したそうで……」
 

湿気で広がった髪を撫で付けながら石川がなんとも申し訳なさそうな声を出した。
 
律がええ、と頷くと石川は余計に眉尻を下げる。


「その……何か話していませんでしたか?」

「どんな話でしょうか」

「ええと……進路の話とかですね……」

 
どうにもはっきりしない石川を見て、律はこの担任が芹に手を焼いているんだろうということを悟った。
 
いいえ、と答えながらも続きの言葉を促してみる。


「そうでしたか……いえね、去年から何度も話をしてはいるんですが……どうにも頑固と言うか、いえ、意思がはっきりしているのは良いことなんですけど……」
 

曖昧なことばかりで一向に核心に触れようとしない話に、律は大きくため息をついた。

「それは本人は進路を決めているものの、周りが納得いっていないということですか?」
 

自分からストレートに聞いてみると、石川は眉尻を下げたまま幾度か頷く。
 
髪を撫で付けていた手は、いつしか頭を掻いていた。
 

その表情から言いたいことはなんとなくわかってくる。