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紅茶に砂糖を入れ一口飲むころには、カーテンの向こうから穏やかな寝息が聞こえてきた。
 

思ったとおり寝不足か、と律はため息をつき席を立つ。
 
ベッドのカーテンを少しだけ開け、中を除くと丸まった背中が見える。
 
下の籠には丁寧に折りたたまれたブレザー。
 

カーテンをきっちり閉めなおし、席に戻ろうとする途中で律の視線が流し台に止まった。

 
自分のコップにもう一つ歯ブラシが入れてある。
 
もう一度ため息をついてから、律はその歯ブラシを抜き取り、ゴミ箱へと捨てた。

ついでに芹が使ったと思われるコップを洗っておく。

 
窓から心地の良い風が吹き込んできた。

流し台の横に置いてある花瓶の花が、気持ち良さそうに揺れている。

 

暫し窓の外を眺めてから律は再びデスクに戻り、来室ノートを開いて芹の欄の所見に「頭痛」とだけ記しておいた。
 

今日の日付のページに初めて書かれた名前だ。

 
前日は二人、その前は一人だけ。
 
過去のページをぱらぱらとめくっても、どのページも空白ばかり。


 
サボりの温床となる保健室の利用者が一日に一人程度だなんて、嫌われたものね。

 
そんなことを考えながら、律はゆっくりと紅茶を味わう。