「貴方もよ。それとも具合でも悪いのかしら?」
 

律が一定のトーンで話すも、男子生徒もポーカーフェイスのまま。
 

ただ、暖かい男子生徒の手が、律の左手首を強く掴んだ。
 

突然のことに眉を若干ひそめながらも、律はその手を振りほどこうとはしない。
 
それは抵抗することが得策ではないことを知っているからだった。

 
嫌がれば嫌がるほど、この手の男は喜ぶだろう。

そう思いため息をつくと、男子生徒は初めて表情を崩した。

口角が上がり、微笑んだような顔になるものの相変わらず瞳は変わらない。

 
冷めた、魚か爬虫類かのような瞳が、じっと律を眺めていた。


「中途半端だし、責任取って欲しい」
 
不意に開かれた形の良い唇は、ある意味律の想像通りの言葉を発してくる。

「断るわ。責任だなんて、都合の良い言葉。私に押し付けないで」
 
律は驚くことも、激しく嫌がるそぶりも見せず、ただ淡々と答えた。
 

しかしそれは男子生徒も同じで、先程から態度は変わらない。


「都合の良い言葉、俺は好きだけど」

「私は好んでいないから」
 

左手首を掴まれたまま、律は動こうとはしない。
 

だが男子生徒は表情を変えず、曖昧な微笑みのまま腕を勢いよく動かした。