保健室アイロニー[短篇]

出て行こうかどうしようか迷って、このまま出て行くのも逃げたようで気分が悪いと思い、芹は昨日と同じ椅子に座ることにした。


「先生さ、何か勘違いしてない? 煙草吸ってないし。さっき職員室にいたから匂いがついただけ」
 

虚しい抵抗だと、自分でもわかっていた。

職員室に向かう前、人気のない場所で煙草を吸っていたのは事実だった。
 

それもしっかり見破ってか、律は鼻で笑いながら席に着く。


「学校一の秀才児が私の言葉を理解できなかったかしら? 歯を磨いたら? って提案したのよ。匂いじゃないわ、味よ」
 

肩肘をついてじっとこちらを見つめてくる律に対し、芹は何度目かのため息をつく。

この教師と関わってから学校でつくため息が増えていたことには自分でも気づいている。

 
と同時にここまで関わる必要もないか、とも思っていた。
 

律の冷たい視線は好ましかったが、かと言ってこの女が好きかと言われれば否と答える。
 

世の中には手に入りにくい女をなんとかして手に入れようと躍起になる男もいるが、芹にとってはそんな女なんか必要なく、ただ従順に足を開いてくれる女さえいれば良かった。
 

もっとも、その女たちはその場限りの話で、普段からつきまとってくるような女を芹は余計に嫌う。

それならばまだ自分に興味の無い女の方が幾許かマシだと思っていた。