保健室アイロニー[短篇]

その沈黙の攻防を破ったのは芹で、明らかに呆れた長いため息を漏らした。


「いくらなんでもデリカシーにかけない?」

「いきなり舌を入れてくるような男にデリカシーはあると思って? 噛み切られなかっただけ良しと思いなさい」


 ああ言えばこう言う。

 
おそらく二人の会話を表すとそんな言葉がぴったりだろう。
 
勿論反論というか嫌味を返してくるのは律で、芹はどうしてもさらに嫌味を言って返すことが出来ない。


「じゃあ舌入れないから、もう一回」
 

が、年上とはいえ女に負けていては気分が悪い。

なんとか言いくるめてやろうと、芹はなるべく淡々とポーカーフェイスを気取って提案してみた。


「残念。煙草吸う男、嫌いなの」
 
その言葉に肩をすくめて芹が再びため息をつく。

だが律の視線と言葉は収まる気はなかったようだ。


「学校で煙草を吸うとはいい度胸ね。せめて歯を磨くかガムでも噛んだら? あと吸殻捨てていくのだけはやめて。携帯灰皿ぐらい、マナーよ」
 

畳み掛けるように放たれた律の言葉は、相変わらず淡々と、悪く言えば抑揚がない。
 
いや、抑揚はあるのだが、それは全て『嫌味』という方向にしか味付けされないものだった。

 
この女は嫌味しか言えないのか。

 
芹がそう思っていると、律は何事もなかったように自分のデスクへと歩いて行く。