出てきたところは校長室。
 
これは何かあったのだろう。

 
そう直感し、芹は心の中でほくそ笑みながらこっちに向かってくる律を無表情で待っていた。

 

ところが律は芹に視線すら寄こさず、ヒールを鳴らして颯爽と歩き去っていく。
 
授業中のため、人気の無い廊下に律の足音だけが響いていた。

 
がっかりというか唖然と言うか、拍子抜けした芹は後を追いかけようかどうか暫し悩む。
 

律の背中が見えなくなった時点で、授業をサボるより保健室にいた方が都合がいいかと結論を出し、ゆっくり歩き出した。
 

見失った律を探さず、昨日の言葉を思い出して真っ直ぐ保健室に向かう。
 
ところが芹が保健室に辿り着いても、鍵はまだかかったままだった。
 
仕方なしに、保健室の入り口が見える廊下の角で待つことにした。


待つこと五分、保健室の主が部屋に戻ってきた。芹に気づくことなく、白衣のポケットから鍵を取り出し、開錠しようとしていたのでそっと背後に歩み寄る。


「随分遠回りで帰ってくるみたいで。誰かと逢引?」
 

若干身を屈め、律の左耳に唇がつくぐらい近づけ、わざと息がかかるように囁いた。
 
律はびくりともせず、大きなため息を漏らす。
 

だがそのままなんとも言ってこず、律鍵を差し込み、保健室のドアを開けて中に入った。