急いで外からの入り口の鍵を開けると、すみません、と落ち着いた様子の体育教師が怪我人の靴を脱がせた。

律は手際よく氷嚢の準備をして、怪我人に近づく。
 

怪我をした男子生徒はちょっと捻っただけらしく、笑いながら申し訳ないです、と体育教師と運んでくれた友人に礼を言った。
 

それを聞いて二人が一旦授業に戻ると、男子生徒は途端に顔を歪めた。
 
あの笑顔は我慢というかプライドの表れか、と思うと少し可笑しくって同時に微笑ましい。


 
そう、普通はこんなもの。
 
誰かの前なら我慢できても、どこかで本音が出てしまうもの。

 
だけど、彼が見せた本音は最後の言葉ぐらいかしら。


 
足首を固定しながらさっきの芹の声を思い出して、律の手が一瞬止まる。
 
しかし、これから関わることも無いだろうと思い直し、怪我の処置を済ませた。

 

マグカップの紅茶は、渋くなってゆくばかり。
 
再び保健室は消毒液の匂いが漂いだした。