「覚悟……? たかが性欲処理に覚悟がいる?」


一瞬、律のボールペンが文字を書くのを止めた。
 
が、すぐにまた走り出し、書類の必要項目を書き出していく。

 
デスクの前に立つ芹からは、妙な威圧感が感じられた。

これ以上返す言葉はないだろうと律は判断し、無言のまま書き上げた書類をファイルに納める。
 

その反応に、芹も言葉は無くなったのか、黙ってドアに向かって歩き出した。

勢いよくドアを閉めて出て行くかと思ったが、思いの外丁寧にドアを閉め、保健室には静寂が戻る。
 


グラウンドから聞こえていた声や音だけが、窓の外から入ってきた。

 
ファイルをしまいながら一息つき、マグカップに紅茶のティーバッグを入れてお湯を注ぐ。

気分を落ち着かせてくれる紅茶の香りが、ほんのり漂い始める。
 

紅茶が抽出されるのを待つ間、デスクの花瓶の水を替えようとして、芹が返してきたものに目が留まった。


「性欲処理……ね」
 
柄にも無く呟きながら、それを手にしデスク横のゴミ箱に捨てる。

 
色んな人間がいるけれど、あの手のタイプも珍しくはないか。


そう思いながら花瓶を持って立ち上がると、窓の外からこっちに向かってくる足音が聞こえた。

振り返るとどうやら体育で怪我人が出たらしく、体育教師と男子生徒が片足を浮かした男子生徒を抱えてやって来る。