消毒液の匂いが漂うその部屋に戻ると、呼吸が増えていることに気がついた。


ため息をつきながら保健医の龍野 律(たつの りつ)はヒールを鳴らして歩き、先程閉めて出て行ったカーテンを勢いよく開ける。


「悪いけれど、ここをラブホテル代わりに使うのはやめて頂けないかしら?」
 

足音に気づいていただろう、開いたカーテンの中、白い鉄パイプで出来たベッドの上には、脚を絡めた男女が律を罰の悪そうな顔で見ていた。

いや、気まずそうな顔をしていたのは女子生徒だけだった。


「まだ挿れてないのね? なら良かったわ。どうやらもう貧血も大丈夫そうみたいだし、下着を着けて教室に戻って頂戴」


他人のベッドシーンを目の当たりにしても顔色一つ変えない律がそう言うと、顔を真っ赤にした女子生徒は乱れた衣服を整え始める。
 

ネクタイを緩め、シャツの上部ボタンだけ外していた男子生徒は、ベッドの上に座り直して髪の毛を整えるだけ。

悪びれた様子も、恥ずかしい思いもしていないように見えた。
 

涼しい顔をして律を見ているようにも思えたが、寧ろ眼鏡の奥の瞳は大した感情を抱えていないように思える。
 


慌てた女子生徒が、自慢であろう黒髪を絡ませた状態のまま無言で退室していくと、律と男子生徒は見つめ合う状態になってしまう。
 

もっとも、見つめているというよりも律が冷たい視線を投げかけ、それを何気なく男子生徒が見返しているだけだった。