追憶のマリア

 れんが引き金を引く直前、れんの隣にいた彼女は、れんの右腕と左胸辺りを両手でつかみ、後方に軽く飛んだ。


 彼女に対して全く警戒していなかったれんは、彼女に引っ張られるように背中から倒れていった。


 れんの放った銃弾は、意味なく空を切り裂いた。


 二人は一瞬宙に浮かんだ。


 そして、暗闇に浮かんだ二人の身体は、そのまま落下した。









 彼女の両手がれんをつかんだ瞬間、俺は走り出していた。


 全速力で二人に向かって…


 最後は幅跳び選手のように飛び、無我夢中で二人の腕を掴み取った。


 俺は二人の重みに強く引っ張られ、屋上の囲いに腹を強打したが、下半身がその囲いに引っ掛かって、俺の下半身はなんとか屋上内に残っていた。


 俺の左手にはれんの左腕、俺の右手には彼女の右腕…


 二人は宙吊りになりながら、俺を見上げた。


「命をかけてお前を守ろうとする女はこれで二人目だな…。」


 自分の命が、俺の腕一本にかかっているこの状況を、コイツはちゃんと理解してるんだろうか…?


 れんは動揺する様子もなく涼しい顔で、彼女のとった行動について自分の意見を述べている。


 そんなれんの表情には余裕のようなものさえ窺える。


「お前の何が、女にそこまでさせるんだろうな…。」


 れんはそう言って薄っすら笑った。


 『くだらねぇ…』


 またしても俺の心を乱そうとするれんの発言に、うんざりした。


 手がちぎれそうで、その激しい痛みに俺は顔を歪めた。