追憶のマリア

「けど…俺が見た写真と顔が違う…」


 俺が銃を構えたまま呆然として、独り言のように呟くと、


「全く別の人生を、全く別人として生きてゆこうと決めたら、お前ならまず最初に何をする?」


 無邪気な子供が、なぞなぞ問題を出すように、れんが俺に問いかけた。


「整…形…?!」


「正解!!」


 俺が応えるや否や、れんが嬉しそうに軽快に叫んだ。


 れんの不自然なほど整った顔もこれで納得がいく。


 けど…何故…?


 俺が見てきた『れん』は、京子が語った『川嶋 剛史』とは全く別人だった。







「俺も新米刑事の頃は正義感に燃えてたさ。」


 れんがうっとりと回想に浸るように語り始めた。


「けど潜入捜査官なんて、ボロ雑巾のように使われ、たいした給料も支払われず、もし捜査中に死んだとしても、最初からそんな捜査官なんか存在しなかったかのように、ろくに葬儀もあげてもらえず、闇にほうむられるだけだ。だよなぁ?『窪田』?」


 そう言ってれんは俺に同意を求めた。


 俺が黙ったままでいると、れんは続けた。


「ある日俺の中で、何かが『ブチッ』と音をたてて切れたんだ。その瞬間、全部が馬鹿馬鹿しくなった。それ以来俺は別人となり、こっちの世界で生きている。お前もそのうちわかるさ。今の俺の姿は、数年後のお前の姿だ。」


「違う!!俺はお前みたいにはならない!」


 れんに心を乱され、激しく揺さぶられ、俺はつい感情的に叫んだ。