追憶のマリア

 俺は彼女の顔を無理矢理俺の方へ向けたが、彼女は、目だけは頑としてそむけたまま決して俺を見ようとしなかった。


 俺はそんな彼女にかまわず言った。


「息子がいるんだろ?息子があんたのこと待ってんだろ?息子のために、自分から身体売ってでも生き延びろ。」


 俺の心は彼女に届いただろうか…?


 確かめるすべもなく、彼女を残して俺は部屋を出た。







 俺は藤堂の件を片付けなきゃならなかった。


 藤堂の事務所は、オフィス街の超高層ビルの最上階にある。


 入り口を入ると、広々としたエントランスの先の突き当たりに、受付嬢が二人立っていた。


 俺は軽く会釈してその二人の前を通り過ぎ、そのままエレベーターへ向かった。


 俺は、女というものが、男のどんな表情を好むか知っている。


 疑われないための戦略として、俺はそれを利用する。


 二人の受付嬢は、案の定、何の疑いも抱くことなく俺を見送った。